繊維状塩基性硫酸マグネシウム(モスハイジ)を用いたポリカーボネートの力学特性改善
1.背景と研究内容
塩基性硫酸マグネシウム(モスハイジ)は樹脂の補強用フィラーとして優れた特性を持つが,ポリカーボネート(PC)に対して適用するとPCが加水分解してしまい混練成形が困難となる。この度,PCの加水分解を抑制しつつ,曲げ弾性率や衝撃強さなどの機械物性が高水準で両立した樹脂組成物を得ることが可能な技術を開発した。
2.モスハイジの特徴
- 樹脂に充填することで高剛性、高流動性※が得られる(※滑剤添加時)
- 一般に用いられる樹脂補強フィラーに比べ比重が軽い
- 生体内での溶解性が高いため、安全性が高い(擬似体液への溶解度0.46g/L)
- 繊維が細かいため、樹脂成形体の表面平滑性が高い
- モース硬度が低く金型の寿命が長い
3.モスハイジ(MOS)の主な用途
- 自動車用PP(樹脂補強)
- ガスケット、パッキン(耐摩耗性)
- 難燃助剤
- 塗料、接着剤(増粘、チキソ性付与)
- ゴム(防滑性)
- アスベスト代替
4.開発した技術とポリカーボネート(PC)へのモスハイジの添加効果
PC/モスハイジ-MB,PC/GF-MBへの改質剤添加量と樹脂物性の関係
開発した技術
- モスハイジ,PP,滑剤,新規改質剤を事前に混練し,マスターバッチ(MB)とする
- (1)で作製したマスターバッチとPCを混練し,ペレット化
PCへの添加効果
- PC単独に比べ,曲げ弾性率が向上
- PCの加水分解を抑制
- 衝撃強さが向上
5.想定メカニズム
(1)PCの加水分解の抑制
マスターバッチ法と滑剤添加効果によりPP中にモスハイジが局在し,さらに新たな改質剤を加えることでPPとPCとの間に改質剤層が形成される。この微構造によりPCとモスハイジの接触が減少し,PCの加水分解が抑制され,衝撃強さが向上したと考えられる。
(2)衝撃強さの向上
衝撃試験における破壊機構の変化は衝撃強さに大きな影響を与える。改質剤添加により発生すると考えられる破壊機構の変化を下図に示す。
改質剤添加によりPP同士の距離が臨界粒子間距離を下回り,破壊機構が小規模降伏から全断面降伏へと変化したため,衝撃強さが向上したと考えられる。
6.参照
一般財団法人プラスチック成形加工学会第31回秋季大会P-009
特許第6747694号
バックナンバー
- 2023年11月1日
- データサイエンスによる開発業務のスピードアップ