研究関連トピックス
2025年3月26日
繊維状塩基性硫酸マグネシウム(モスハイジ)を配合したPBS・PBSA樹脂組成物の力学特性と生分解特性
1.背景と研究内容
塩基性硫酸マグネシウム(モスハイジ)は樹脂の補強用フィラーとして優れた特性を持つ。また、近年の環境意識の高まりから生分解性樹脂が注目されており、中でも、ポリブチレンサクシネート(PBS)やポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)はコンポスト環境や土壌中で優れた生分解性を有することから大きな注目を集めている。
この度、これら生分解性樹脂にモスハイジを一定量添加することにより、力学特性と生分解特性が向上することを確認した。
2.モスハイジの特徴
- 樹脂に充填することで高剛性、高流動性※が得られる(※滑剤添加時)
- 一般に用いられる樹脂補強フィラーに比べ比重が軽い
- 生体内での溶解性が高いため、生体安全性が高い(擬似体液への溶解度0.46g/L)
- 繊維径が細いため、樹脂成形体の表面平滑性が高い
- モース硬度が低く金型の摩耗が少ない
モスハイジの製造フロー

他の無機フィラーとの物性比較

PPに対するモスハイジの添加効果

3.モスハイジ(MOS)の主な用途
【主要用途】
- 自動車用PPの樹脂補強材(内装材が主)

【その他の用途例】
- ガスケット、パッキン(耐摩耗性)
- 難燃助剤
- 塗料、接着剤(増粘、チキソ性付与)
- ゴム(防滑性)
- アスベスト代替
4.モスハイジを配合した生分解性樹脂(PBS,PBSA)組成物の力学物性および生分解性
実験で使用した原料

実験フロー

結果
(1)生分解性樹脂にPBSおよびPBSAを用いた場合の各種フィラー配合樹脂組成物の力学特性など
モスハイジ(MOS)を添加することにより、曲げ弾性率が向上することを確認した。
あわせて、モスハイジの添加量が30wt%以下において,加水分解による生分解性樹脂の分子量低下が発生していないことも確認した。




(2)生分解性樹脂にPBSAを用いた場合のモスハイジ配合樹脂組成物の生分解特性
モスハイジ(MOS)を添加することにより、生分解性樹脂(PBSA)の分解が促進されることを確認した。
これはモスハイジのアルカリ性により生分解性樹脂の分解が促進されたことによるものと考えられる。
- 試験試料:PBSA/モスハイジ=100/0、70/30
- 評価先:化学物質評価研究機構
- ASTMD6691 改変法(酸素消費量)
- 海水:200ml(福岡県福岡市採取)
- 培養温度:30℃±1℃、暗所
- 培養期間:150日間
-
生分解度の算出
生分解度(%)=(BODO-BODB)/TOD×100
- BODO:
- 試験試料の生物化学的酸素要求量
- BODB:
- 空試験の生物化学的酸素要求量
- TOD:
- 試験試料が完全に酸化された場合に必要とされる理論的酸素要求量

5.まとめ
① 生分解性樹脂(PBS、PBSA)にモスハイジを一定量添加することにより、力学物性(曲げ弾性率)が向上する
② 生分解性樹脂(PBSA)にモスハイジを30wt%添加することにより、生分解特性(分解速度)が向上する
6.参照
一般財団法人プラスチック成形加工学会第32回秋季大会P-059
特許第7382490号、特許第7421635号
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